海外医療情報相談センターでは困難ともいわれる海外での肺移植支援に成功した経験があります。
技術面でも肺移植とは小腸移植に次いで困難な移植となります。
<>
その理由は常に外気にさらされている為に肺炎等の感染症のリスクが高い事、拒絶反応により気管支の狭窄が診られたり、肺移植とは血流停止後から速やかに移植術を完成させなければならない等の問題があります。
日本でも原因の特定されない脳浮揚により肺移植後病体が安定しない患者が続き、肺移植が停止、再開が繰り返されて来ました。
しかしながら肺移植を必要とする患者は必ずと言っていい程、肺移植を受けなければ死亡するという事実があります。
そういった中でも術後容態が安定されている患者さんがおられる方もおられるので絶望する必要は無いともいわれています。
肺移植には左右どちらか片方の肺のみを移植する片肺移植と、両方の肺を移植する両肺移植とがあります。どちらの手術を行うかは疾患の内容や重症度により異なります。
手術について
すべての肺移植の手術は全身麻酔のもとで行われます。肺移植手術は原則として両肺または片肺移植が行われます。
手術は人工心肺(一時的に肺の補助を行う機械)を必要とする例が3分の1、人工心肺を使わない例が3分の2です。人工心肺は一般的に手術室に常備してあり、使う症例においても専門の技術者によって管理が行われ安全に手術が行われます。
片肺移植の場合、気管支、肺動脈、肺静脈を開鎖し切り放して病的な左または右の肺を取り出します。その後、臓器提供者より頂いた肺を胸の中に入れ、気管支、肺動脈、肺静脈の順序で吻合(縫い合わせ)します。すべてが縫い終わった時点で、気管支から麻酔 の管を通して空気を送ります。吻合した血管にも、それまで止めていた血液を流します。 その後胸の中に出血などかないのを確かめて、排液のための管を左右2本ずつ入れて胸を閉めます。
両肺移植の場合、両肺移植の場合は、上記の片肺移植を左右それぞれに行うことになります。
手術は習熟した呼吸器外科医、麻酔科医、中央手術部看護婦など10名以上が肺移植チームを作って担当します。手術時間は6-12時間を要します。移植手術中から移植直後にかけてもっとも問題となるのは出血です。もともと肺が炎症を 起こしていたりすると、癒着がひどく毛細血管がたくさん発達しています。さらに人工心肺を用いる場合、血液が固まらないようにヘパリンという抗凝固剤を使用するため、さらに出血量が増えます。ほとんどの症例で輸血が必要だと考えていてください。手術終了後も持 続的に出血が見られ、再手術にて止血を行うという危険性も高くみられます。
手術後は集中治療室(ICU)に入室されます。また術後の管理も難しいためICUに滞在する期間も長くなる可能性があります。術後の状態が落ち着けば、通常14-30日で呼吸器外科病室に移ります。移植肺がしっかりと機能するまでには1~数週間かかります。その間は人工呼吸器につながれていたり、繰り返し強制的に吸痰されたり、体が動かせなかったり、思うように息が吸えなかったりと、移植前よりもずっと苦しいと感じられると思います。その苦しい時期を乗り越えて初めて、移植前よりも楽になったと感じられるようになります。
手術後の管理について
手術14-30日は集中治療室(ICU, 24時間体制の重症患者治療室)で看護治療を受けます。この間は家族の面会が制限されることをご理解下さい。その間しばらくは気管内挿管(気管に管を入れること)を行い人工呼吸器で呼吸を助けることになります。また、点滴をしたり、血圧や血液の中の酸素濃度、静脈の圧などを測る細いチユーブを血管の中に入れたりしておきます。また肺内に痰などが溜まれば必要に応じて、局所麻酔下に気管支ファイバースコープ(気管支内を直接観察できる内視鏡)を用いて痰を吸い取ります。この検査・処置は、気管支の吻合部の治り具合を観察するためにも、繰り返し行います。
集中治療室入室中に人工呼吸管理となっている時は、わざと睡眠薬で意識レベルを落として苦痛の少ないようにします。しかし寝たきりの状態ですと、呼吸器合併症などを起こす危険が高まるため、全身状態・呼吸状態に合わせて極力意識レベルを上げ、体も起こすようにしていきます。リハビリの専門家に手伝ってもらい、関節を動かしたり、呼吸の理学療法を行ったりもします。この時期が患者様にとって最も苦しい時期です。移植前よりも体も動かない、呼吸もしづらい、痛みもあるといった状態が続き、手術によって逆に苦しくなったと感じられるかもしれません。移植された肺が正常に機能するのには数日から数週間かかる場合があります。それを乗り越えて初めて移植前よりも楽になったと感じられると思います。
そしてICUから退出できると、呼吸器外科病棟の個室に移ります。ここで服薬指導・栄養食事指導・リハビリテーションを行いながら、退院を目指します。リハビリテーションはICU入室中から開始されます。病棟ではベッド上での呼吸体操や四肢の運動、ゆっく りとした歩行訓練、深呼吸、リハビリ室での歩行訓練や自転車漕ぎなど、体の状態に合わせて徐々に運動量を増やしていきます。そして毎日必ず体温・血圧・呼吸機能測定を行います。免疫抑制剤の血中濃度の測定も頻回に行われます。
薬に関しては、手術直後は原則として免疫抑制剤(移植臓器の拒絶反応を抑える薬)のサイクロスポリンAまたはタクロリムス、アザチオプリンまたはセルセプト、そしてステロイドの3剤を点滴または胃管で投与しますが、 食事が出来るようになったら経口的に服用して頂きます。その他ステロイド(副腎皮質ホルモン剤)を術後5日目からやはり経口的に投与します。
この2つの薬は、量は次第に減少しますが、術後は毎日続けて服用する必要があります。拒絶反応が出現した時は増量し、感染症などの合併症が出現した時は減量するか一時中断します。免疫抑制剤は他にも数種類あり、拒絶反応のリスクや程度に合わせて追加されたり増量される場合があります。その他感染症予防のための抗生物質や薬剤による副作用を抑えるための薬も投与されます。
術後早期合併症について(術後1ヶ月以内)
再潅流傷害(急性肺傷害)について再潅流傷害とは肺移植にて移植された肺に血流が再開した後に生じる反応で、肺移植を受けた患者さんの約80%に認められるといわれ、重症例は20%の方に出現します。この詳細な機序は明確ではありませんが、リンパ系、気管支血管系や神経構造などの崩壊によって生じるとされ、臨床的には肺が部分的あるいは全体的にむくみ(肺水腫)肺を障害します。治療として胸部X線写真を連日確認すると同時に利尿剤などを使用して体内の水分制限をはかります。また一酸化窒素(NO)の吸入により呼吸ができている部分の肺胞に流れる血管を広げて、酸素の取り込みを促進したりします。
拒絶反応について
肺移植では、術後3週間以内に急性拒絶反応の出現がみられることがあります。これは移植された肺が、患者さんの体内に十分に受け入れられないために起こる反応です。その症状の始まりは、息切れ、発熱、運動能の低下などです。そして血液の中の酸素濃度 の低下、胸部X線写真での異常な影の出現などで拒絶反応の発生を確認したときは、ステロイド(副胃皮質ホルモン剤)の静脈注射を行うと、2-3時間以内に症状の改善を認め、12-24時間で胸部X線写真の異常な影も改善します。それ以降も拒絶反応の可能性は常に存在するため、入院中、退院後を通して注意深い観察が必要になります。急性拒絶反応が生じた場合ステロイドの大量投与(パルス療法)を行い、すみやかな改善を図ります。
感染症について
感染症について移植を受けた患者さんに最も起こり易い合併症は、免疫抑制剤投与による抵抗力(免疫力)低下のために起こる感染症です。
特に肺移植では、移植を受けた肺が気道を通して外気と接しているため、肺の感染症が起こり易くその対策が必要です。手術直後には、抗生剤を投与される事が一般的ですが、その後は外来通院で経過を観察し感染症の発生に対処します。
一般的な症状としては、発熱、咳、痰の増加、全身倦怠感などです。これらの症状があると、 胸部X線検査、血液検査などを行って発生した感染症の原因を調べます。肺の感染症の原因としては一般細菌、ウイルス、ニューモシスチスカリニに代表される原虫、カンジダと呼ばれるような真菌がありますが、早期に原因となるものを調べ、それに有効な薬剤を使用して治療します。なお発生頻度の高いウイルス(サイトメガロウィルスと呼ばれるもの)感染に対しては、あらかじめこれに有効な薬を術後一定期間服用して頂きます。特に拒絶反応が出現した場合には、その治療の経過でこれらの感染症を合併し易く、あらかじめ抗生剤などを投与して感染症の発生を予防します。対応が遅れると致命的になることもあるので、早期の治療が重要です。定期的な外来通院でも、チェックしますが、上記のような感染症を疑う症状が見られた場合、直ちに病院に運絡すればいいでしょう。
晩期合併症について(術後1ヶ月以降)
急性拒絶反応について急性拒絶反応の発生頻度は術後徐々に減少しますが、術後1ヶ月以降でも20‐30%の患者さんに認められることがあります。診断には前述した臨床症状、機能的評価や胸部X線写真にて行われます。また治療も同様に行いますが、術後1ヶ月以内に比べ薬に対する反応が良くないこともあります。
感染症について
感染症について外来通院時でも感染症には注意が必要となります。原因としては前述した一般細菌、ウイルス、原虫、真菌、抗酸菌などがあります。細菌ではグラム陰性菌や緑膿菌が原因となることがほとんどです。ウイルスではサイトメガロウィルス感染が重要であり、また真菌感染症のほとんどはアスペルギルスによるものです。いずれも免疫抑制状態や慢性拒絶反応と関連して生じるものです。また抗酸菌やニューモシスチスカリニなどの原虫によるものは5%未満と少ない頻度で発症することがあります。症状は発熱、息切れ、咳、喀痰などがあり原因に応じた治療を行います。
外来通院時において定期的なチェックをしますが、このような感染症を疑う症状が出たら直ちに来院するか主治医に連絡して下さい。
慢性拒絶反応について
晩期の拒絶反応を慢性拒絶反応といい、予後にかかわる大きな因子になります。慢性拒絶反応の原因は気道への血液供給が進行性に消滅することや、免疫的な過程によるものなどが考えられていますが、詳細は明確ではありません。そのため効果的な治療方法も 十分確立していないのが現状です。慢性拒絶反応の程度や進行度はさまざまで、急速に肺機能を悪化させる場合もあれば、長期にわたり平衡状態で経過する場合もあります。定期的な肺機能検査にて突然あるいは進行性の肺機能の低下が認められることで示唆されます。また感染症が合併しやすく、このことも肺機能の状態を左右することになります。治療としてステロイド(副腎皮質ホルモン)や免疫抑制効果のある薬物を投与しますが、期待するほどの十分な効果を得られておりません。欧米ではこのような患者さんに2度目の肺移植を考慮する場合もあります。
免疫抑制剤による合併症について
最も効果的で主たる免疫抑制剤となるサイクロスポリンAですが、程度の差はあるものの種々の副作用があります。早期の副作用として一般的に胃腸障害や頭痛がありますが、視覚障害や精神障害が生じることもあります。重大な副作用としては75%に腎毒性がありますが、投与量にて予測が可能です。その他に高血圧などがあります。免疫抑制剤の血液中濃度については定期的にチェックを行い適正量の投与を行います。また気にかかる症状が出ましたら直ちに主治医に連絡するか来院して下さい。その他タクロリムス、ステロイ ドなどすべての免疫抑制剤にさまざまな副作用が存在します。副作用の程度、拒絶反応や感染症の有無により、免疫抑制剤の種類や量は適宜変更されます。
入院期間後について
約2カ月の入院期間を経て、順調に経過すれば外来過院となります。退院後もサイクロスポリン A,タクロリムス,ア ザチオプリン,セルセプトといった免疫抑制剤(このうちの2種類)、ステロイド(副腎皮質ホルモン)は毎日服用して頂き ます。臓器移植を受けた患者さんはこれらの薬を毎日継続して服用しなければなりません。そのほか感染症予防のための抗生物質,薬剤の副作用を抑えるための薬など10種類以上の薬の服用が必要となります。当分の間2週間に1度来院し担当医の診察と採血・レントゲンを受けることになります。
家庭では毎朝、簡易肺機能検査器により肺活量の測定を行い、突然低下が見られた場合にはすぐ連絡していただきます。その他、微熱の継続、息切れなど何らかの症状がみられた場合にも来院していただく必要があります。
重症の拒絶反応、感染症、その他の重篤な合併症の発生がなければ,術後3カ月位で日常生活はあまり不自由なく過ごせるようになり、術後6カ月以内には社会復帰が可能となります。
詳しくは
海外渡航臓器移植について、のページを参考にしてください。